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ウイスキーの父「マッサン」竹鶴政孝のウイスキーへのこだわりとは?

「頭の良い日本の青年が一本の万年筆とノートでウイスキー造りの秘密を盗んでいった」かつての英国首相はユーモアと親愛の情を込めてスピーチしたと逸話があります。それこそが竹鶴政孝の書いた通称「竹鶴ノート」。日本のウイスキー造りの出発点である竹鶴の豆知識をご紹介!

「マッサン」と呼ばれた男、竹鶴政孝の夢

世界の5大ウイスキーの一つに数えられるジャパニーズウイスキー。そのウイスキー造りの始まりは明治に生まれ、大正、昭和を駆け抜けた、一人の青年の熱い思いだった。「マッサン」と呼ばれた男、ニッカウイスキーの創業者である竹鶴政孝(1894―1979)。広島県竹原町(現・竹原市)の造り酒屋に生まれ、日本で初の本格ウイスキーづくりを目指した竹鶴政孝の情熱は、英・スコットランドで出会った生涯の伴侶・リタの力強い愛と、身近な人たちの温かい応援に支えられて見事に結実した。竹鶴政孝は何を考え、どう行動したか。生誕から120年、彼が興したニッカウイスキーの創業から80年のときを越えて、竹鶴政孝の心のふるさととも言えるスコットランドでのことを交えながら描いてみたい。

竹鶴が綿密に描き、書きこまれたウイスキーづくりの工程。

竹鶴政孝は、1918年12月にスコットランドへ到着。翌1919年にスペイサイドのロングモーン蒸溜所にてモルトウイスキーの製造実習、ボーネスのジェームス・カルダー社工場にてグレーンウイスキーの製造実習を積み重ねます。そして、1920年の中頃、キャンベルタウンにあるヘーゼルバーン蒸溜所にて再度、モルトウイスキーの製造実習とブレンド技術の習得に臨みました。その際、学んだウイスキー製造工程のすべてをメモに残し、宿に戻った後、自らの意見を添えて書き記したのがウイスキーに関する『実習報告』と題された「竹鶴ノート」です。内容は驚くほど詳細で、ウイスキー造りの設備のイラストも交え、綿密に書きこまれています。竹鶴の帰国後、日本の本格ウイスキーづくりは、この二冊の竹鶴ノートを元に発展していきました。1934年に設立した余市蒸溜所の石炭直火蒸溜によるポットスチルも、竹鶴の実習先の蒸溜所に倣ったものであることが分かります。

「竹鶴ノート」は当時のキャンベルタウンウイスキー産業を知る、スコッチウイスキーの歴史資料としても貴重。

竹鶴政孝の留学頃までウイスキーづくりが盛んだったキャンベルタウンは、その後、ウイスキー産業が衰退してしまいます。現在、ヘーゼルバーン蒸溜所のウイスキー造りに関する記録・資料は「竹鶴ノート」以外にあまり残っていません。また、竹鶴ノートにはウイスキーの製造方法の他、スタッフの労働条件なども記載されており、当時のスコットランドのウイスキー工場経営を垣間見られる資料としても貴重なものといえます。「竹鶴ノート」には、キャンベルタウンの風景や蒸溜所の内観・外観を撮影した写真も複数添付されています。そのうち、海のすぐ近くまで街並みが広がるキャンベルタウンの風景は、北海道余市とそっくり。竹鶴が、余市に蒸溜所を建てることを決意したのはキャンベルタウンの風景が頭の片隅にあったことが伺えます。

「出来る限り小規模に」という決意。竹鶴にとってのウイスキーづくりは設備ではなく、人の心だ

数々の蒸溜所を視察した竹鶴は、ウイスキー工場経営の難しさを実感したのでしょう。竹鶴は1920年の時点で将来を見据え、「着実なる事業の発展」を念頭に置いたようです。実際に1934年、竹鶴は余市蒸溜所の開設当時、通常であれば初溜用と再溜用の二基を設置するポットスチルは、資金繰りの面から一基しかありませんでした。そのため初溜後のポットスチルを丹念に清掃し、再溜用として使用。大変な労力ではありましたが、竹鶴は「ウイスキーづくりは設備ではなく、人の心だ」と、従業員と自分を激励し、本格ウイスキーづくりに邁進します。

退出時間が来たら遠慮なく家に帰り、家族と楽しい夕べを過ごすこと。それこそ「人として踏むべき道」。

「竹鶴ノート」には、ウイスキー製造に関することのみならず、社員の待遇や働き方、労働環境についても書かれています。竹鶴は「効率をはかり退出時間が来たら遠慮なく家に帰り」家族とともに「楽しい夕べを過ごす」ことは、「凡そ人として踏むべき道」である、と。大正中期にあって、このような意見を誰はばかることなく書くことのできた日本人は多くはなかったでしょう。竹鶴は機会あるごとに家庭を大事にすることを奨励。また、ニッカウイスキーでは、竹鶴をはじめ社員一同挙げて、家族も交えてのレクリエーションやスポーツクラブ活動が盛んに行われました。そして、「よく働き、よく遊ぶ」というのが竹鶴の築いたニッカの社風のひとつとなったのです。

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